安倍首相は5日、14日に閣議決定する成長戦略の第3弾を発表しました。
首相は、「経済政策の本丸は、三本目の矢である成長戦略」とし、「その要諦は、民間のあらゆる創造的な活動を鼓舞し、国籍を超えたあらゆるイノベーションを日本中で起こすこと」としました。「高品質のものづくり、きめ細かなサービス、統合されたシステム、繊細なオペレーション。日本企業の持つ様々な「可能性」を解き放ち、世界に展開することにより、世界の発展に貢献する」ことが、首相の目指す「成長の姿」としました。そして、「今こそ、日本が、世界経済復活のエンジンとなる時」としました。
「目先の利益だけで動くマネーゲームではなく、しっかりと実体経済を成長させて、その果実を、広く頑張った人たちに行き渡らせる。これが、アベノミクスの狙い」とし、企業経営者に対して、「求められているのは、スピード感。そして、リスクを恐れず、決断し、行動する力」と訴え、「規制改革こそ、成長戦略の「一丁目一番地」、私も、皆さんが思う存分チャレンジできるよう、チャンスをつくる。リスクを恐れず、「改革」を果断に進めていく」としました。首相は、「成長のために必要であれば、どのような「岩盤」にも、ひるむことなく立ち向かっていく覚悟」とし、「企業活動の障害を、徹底的に取り除く」としました。
首相は、こうした基本的な考えのもと、インターネットによる一般医薬品販売の解禁、ネット選挙の解禁、健康食品の機能性表示の解禁を規制改革会議の答申を得て実施するほか、「混合診療」の問題に関し、保険外併用の「先進医療」について審査期間の短縮等によりその範囲を拡大するとしました。細切れの農地を集約して競争力を高める、いわゆる「農地集積バンク」への取組みをさらに強化するとしました。また、「国際戦略特区」を新たに創設し、小泉内閣が始めた構造改革特区を「面的なもの」に進化させ、国自身が主導する「聖域」の無い規制改革特区とするとしました。
更に、首相は、「官業」を大胆に開放するとし、エネルギー、医療、インフラ整備といった「将来の成長が見込まれる産業」に関し、「がんじがらめの規制を背景に、公的な制度や機関が、民間の役割を制約している、いわば「官業」とも言える世界」を「大胆に開放していく」、「そして、日本人や日本企業が持つ、創造力や突破力を信じ、その活力を自由に解き放つ」としました。具体的には、「電力システム改革」、レセプトにつまっている診療情報の加入者の病気予防への活用、インフラ分野で民間資金を最大限活用するためのPPP/PFIの積極活用を進めるとしました。
首相は、第1弾の「女性の活躍」、第2弾の「世界で勝つ」、そして、今回第3弾の「民間活力の爆発」で、「成長戦略の三本柱がそろう」とし、「KPI」、「達成すべき目標」を民間投資、インフラ輸出、外国企業の対日直接投資残高等で示した上で、「成長戦略の目指すところが、意欲のある人たちに仕事をつくり、頑張って働く人たちの手取りを増やすことに他ならない」として、最も重要なKPIとして「一人あたりの国民総所得」を挙げ、成長戦略を含む「3本の矢」を実施することにより、これを10年間で150万円以上増やすことができるとし、「停滞の20年」から「再生の10年」へと「日本経済を大きく転換する」としています。
今回の発表は、特に、「規制改革」に焦点を当てて、基本的な考えと具体的な取り組みを示すとともに、これまで発表した第1弾、第2弾も踏まえて、日本経済の再興に向けて、一定の数値目標を示し、目指すべき姿を提示しました。
前段で示された規制改革等についての「基本的考え」につきましては、私も全く異論はありません。しかし、問題は後段の「具体的な取り組み」です。今回も、保険診療と保険外診療を併用できる「混合診療」の問題には踏み込まず、農業への株式会社の本格的参入には踏み込んでいません。「痛み」の伴う施策については、関係業界に配慮して踏み込みが足りません。
成長戦略の内容が徐々に明らかになる中で、株式市場においても「失望売り」が目立ってきているように見えます。昨日も安倍首相の講演後株価は急落し、日経平均株価は500円超下げました。
既存の制度・規制に守られている「既得権益」にメスを入れ、民間の新規参入等により創意工夫によるイノベーションが生まれるような環境整備が本当にできるか。今回の発表からも、「聖域」に踏み込むことには及び腰の自民党政権の限界が透けて見えてきます。
黒田日銀の「異次元の金融緩和」により動き出したマネーの動きを着実に実体経済の回復に繋げ、デフレからの脱却、日本経済の再興に繋げていかなければなりません。まさに、今が、日本経済の再興にとっての正念場です。政府には、より大胆な「規制改革」、過去の政権ができなかった「異次元の規制改革」を求めていきたいと考えています。